NEW NURSING

ハワイの疫学者が日本の医療について議論する記事です。

NEXT Health Care

次世代の医療へ

災害統計

ここ数ヶ月は東北を行脚しまくり、

震災後の死因統計と医療分布戦略を

都道府県庁にアドバイスしています。


YUITOの専門は、疫学の中の

「過酷な状況でいかに

 精度が高く、論理的なデータを集めるか」

という「研究方法論」になります。


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本来データのとりづらい、

災害時や発展途上国では、

" Quick & Dirty "

(汚いデータでいいから、

 最低限のデータでいいから、

 とりあえず素早く集めろ戦略)

という手法を用いて、

データ収集と分析を行います。


YUITOは、

アフリカや紛争地などの環境で、

しっかりと論理的サンプリングを用いて、

さらにインタビューや参加観察などの

質的データまでも含めた包括的なデータ収集方法

" Quick & Rich "

(すばやいデータ収集だけど、

 論理的で情報豊富なものを集められる戦略)

を確立しつつあり、国際的な評価をもらっています。


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アフリカなどで

その専門性を活かし始めていた頃に、

東日本大震災が起こり、

「まさに自分の出番だ!」と電話をかけまくり、

" Quick & Rich "

を行おうとしていると、

そんなの知らんと日本の学閥に反対され、

自分の日本人の疫学師匠が提案していた

” Quick & Dirty ”

(通常なら紛争地でさえ24時間以内に精度の高い

 情報プラットホームを構築可能です。)

までなんと却下されてしまったのです。


いつもアフリカで普通にできていることが

日本では「学閥」という

くだらない壁によって否定され、

なんと今回の東日本災害時の初期からの

総合的な疫学データは今も存在しないのです!


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これには師匠と一緒にマジで泣きました。


ちなみに日本の各大学や組織が

" Slow & Perfect "

なデータを構築しようとしていたのです。

(災害1か月後くらいから起動しましたが!)


これには「大大大ショック」を受け、

ずっと海外メインでやってきたけど、

自分の母国である日本にも還元しなければと感じ、

今は海外に行きつつ、頻回に東北に足を運んでいます。


自分なりの懺悔です。


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そのなかで、

震災によって多くの人が命を失い、

日本全体の「死亡統計」にまで

長期的な影響を与えているので、

それを補正するのが自分の役割になります。


# 災害死の死因

# 避難によって生じた肺炎の上昇

# 災害による直接的、間接的原因による自殺

などをどう扱うかが議論となり、

現在も細かい補正をかけています。


今回は東日本大震災の影響も含めた

平成23年の人口動態調査から

「災害統計」を読んでみましょう。


東日本大震災の死亡の状況(H23).pdf 直


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1)死亡数


人口動態調査とは、

簡単に言えば役場に出す書類で、

「出生」届、「死亡」届、「死産」届、

「婚姻」届、「離婚」届

の5項目の状況を毎週リアルタイムで把握できる

人口統計システムです。


対をなすのが、5年毎に行われる

世界一正確な「国勢調査」で、

こちらは人口静態調査と呼ばれます。


厚生労働書のHPからも詳細が取り出せます。

人口動態調査|厚生労働省


平成23年版は東日本大震災があり、

今回の人口動態調査では、

届け出のまま分析したものとなり、

東日本大震災」がいかに大きなインパクトで、

日本の平均的な死因まで変えてしまったかが見えます。


※ちなみに行方不明者は含まれていません。


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東日本大震災における死者数は

総数 18,877人で、分布は以下の通りです。


1位 宮城県 10,483人

2位 岩手県  5,642人

3位 福島県  1,757人


また、女性が多かった点も特筆する点でしょう。


男性  8,693人

女性 10,184人


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2)年齢別死亡の分布


今回は地震より津波による死亡が多く、


# 逃げ遅れた

# 避難の連絡が来にくかった

# 簡単に行動が起こせなかった


「高齢者」が犠牲になっていることが

データによって浮き彫りになっています。


全死亡のうち、

60歳以上の死亡が 67,9%を占めているのです。

(つまり、死亡者の3人に2人が60歳以上)


もちろん、高齢者の多い街が

津波に襲われたことも関係しているでしょう。


特に、男女とも70歳以上の高齢者が

年代別としては最も多く被害を受けています。


今回は「高齢者」への被害が多く、

今後は震災時に

「高齢者に対して、

 どのようなアプローチで情報提供して、

 早めに避難できるようにするか。」

が災害予防の課題となります。


特に、女性の死亡が多く、

「あまり積極的に移動しない」

または

「積極的な移動手段がない」

高齢の女性へのアプローチという

新しい課題も見つかりました。


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そして、最も心を痛めるのが、

「0-4歳、0-9歳の死亡も少なくない」

ということです。


質的な分析をかけてみると

こどもは一人では逃げられないし、

お母さんと一緒に逃げて、

けれど、子どもがいるので、

素早くは避難できずに、そのまま

親子2人とも流されてしまったケースが

多いように思えます。


この統計で、

「こどもを持つ母親に対して、

 どうやって避難をスムーズに行ってもらうか。」

という問題も発見されました。


自然はコントロールできませんが、

災害被害はコントロールできると考えるので、

たくさんの専門家と恊働してシュミレーションして、

多くのシナリオを作ることが必要だと感じています。


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3)災害死因


これは様々な議論がありましたが、

死因統計の「不慮の事故」に含むこととして、

詳細な死因はだれにもわからないので、


# 外因の詳細不明の作用 14,491人(77%)

  (低体温、窒息、溺死)


# 詳細不明の損傷 3785人(20%)

  (体幹や四肢、その他の損傷)


となり、分類法がそもそも

適切でないように思われます。


ただ、災害により

避難所生活になったり、

また入居高齢者の移動があったり、

「肺炎」が増加して、

平成23年度の全死因の3位が

「肺炎」になってしまいました。


もちろん、

不慮の事故も5位になっています。


平成23年死因

1位 悪性新生物(28%)

2位 心疾患(16%)

3位 肺 炎(10%)↑

4位 脳血管疾患(9.9%)↓

5位 不慮の事故(4.7%)↑


ただ、震災の影響がなくても

日本の高齢化により肺炎が

死因の第3位になるのは時間の問題でした。


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その他、死因にはあがってきませんが、

# 赤タグは少なかった

# 遺体が見つからずQOLがかなり落ちた

# 破傷風の増加

# 敗血症の増加

# PTSDの集団発生

# 四肢外傷の増加

などのデータもあります。


迅速なデータベースが構築できなかったので、

避難所でどのような感染症

どのような形で流行り、

また何が供給不足だったのか、

「再発予防のために一番大事なデータ」

が、すべて闇の中になってしまいました。


一生悔いていく事実です。

日本についてもう一度、

しっかり考えようと決めた理由です。


ただ、災害に関わる人や一般の人が

この記述や災害統計を読んで、

少しでもリアルなシナリオを創造し、

災害予防に役立てて頂ければ、幸いです。


FOR the JAPANESE

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