外人入院1
最近よく聞く会話です。
「最近、病棟に外人が入院してきてさ。
言葉通じなくて、本当に困ったんだよね。」
「マジ?うちも最近、
外来によく来るんだよね。外人。」
2012年末の法務省のデータによると、
現在日本には200万人以上の外国人が住んでいます。
これは日本人口の約1.5%にあたる数であり、
200人に3人は外国人ということであり、
予想以上に外国人が多いという事実がわかります。
法務省HP:在留外国人統計
出身国別にみてみると
アジア人が約160万人で約80%を占めており、
1位 中国人 65万人
2位 韓国人 53万人
3位 フィリピン人 20万人
4位 ブラジル人 19万人
他5万人を超える国
・ベトナム
・アメリカ
・ペルー
という順になっています。
年代としては20-30代の若者が多く、
場所は首都圏や大阪、名古屋、福岡など
大都市に多い傾向にあります。
市町村が主体である国民健康保険には
簡単な条件をみたせば、
在留外国人も加入することも可能であり、
外国人観光客の増加に伴い
日本の医療にアクセスする外人が
今後増加することは間違えないでしょう。
個人的には、
救急外来ではよく外人を見かけますし、
知り合いの大使館員から
病院受診の相談を受けることも多くなっています。
ということで、今回は
「外国人が入院または外来に来たら
どのような特殊なケアプランを必要なのか?」
についてお話したいと思います。
外人が入院もしくは外来にアクセスしてきたら
思い出してみて下さい。
これは外国人に特有の5つのケアプラン要点を
P = Pain & Privacy(痛みとプライバシー)
R = Religion(宗教)
A = Anxiety(不安)
D = Drug dose(薬剤量)
A = After care(ケア後)
と覚えやすいように「PRADA」とまとめています。
外国人ケアプラン「PRADA」として
いつも病院のレクチャーでも教えています。
某ブランドとは全く関係ありませんが、
1) Pain & Privacy
一番理解してほしいのが
痛みとプライバシーの概念が
全く違うということです。
日本人からすれば、外国人は痛みに弱く
声をあげてうなることが多い印象があります。
しかし、これは逆で
日本人が世界一我慢強いだけなのです。
日系アメリカ人のケアプラン本には、
日本人は痛みを我慢することが「美」だから
痛み止めを使いすぎてはダメだと書いてあります(笑)
従って、外国人には
早めに強い鎮痛剤を使用することが必要であり、
たとえ軽症でも即効性の強い鎮痛作用を期待して、
はじめから静脈注射で準麻薬を使うことも多いです。
外国人の場合、痛みを取らないとうめきまくり、
問診も検査もできない状況が続いてしまいます。
ドレーンが入っているだけで、
痛いと不穏になった症例もいました。
入院した際には、
ペインスケールを継続的に使用して、
(0 to 10 point scaleをいつも使っています)
鎮痛薬がどれくらい作用しているかを
痛みをアセスメントしていくことが
一番大切なケアプランとなります。
またプライバシーの概念も
日本人と大きく異なることに
注意しなければなりません。
先日、AMIで入院した某国上級大使館員が、
PCI後に「清拭」と「陰部洗浄」をされて
「人生最大の屈辱だった。」
と嘆きの電話をかけてきました。
日本では普通のケアが
外国ではありえない状況になることに
気づかないといけません。
清拭と陰部洗浄は日本独自の文化なので、
(これも毎日行う必要はないと思いますが。)
外国人本人と相談した上で、
本人が希望すれば行うのが現実的でしょう。
個人的には
外国人クライエントが入院した際には、
清拭 → 基本シャワーでダメならベッドバス
数日で離床できるなら部分清拭のみ
陰洗 → トイレで自分で行ってもらう
家族や同性看護師に行ってもらう
というケア調整を病棟看護師と行っています。
特に一部の国では、
妻や夫以外の異性が体幹に触ると
宗教上の罪になることもあり得るので、
早めに清潔ケアの話をして、
本人と家族の同意ないしケア調整をしてみて下さい。
UBC(膀胱留置カテーテル)が入っている場合には、
「消毒」という名目で陰部洗浄すると
本人も受け入れしやすくなります。
また座薬もとても嫌がることも多く、
入院は普通、個室でしょうと言う外国人もいますので、
文化の違いに注意しましょう。
文化の違いを認識する最良の方法は、
ひたすらコミュニケーションすることです。
<まとめ>
・外人には早めに強い痛み止めを使う
・ペインスケールで継続的に評価する
・清拭と陰洗は事前に相談しよう
・座薬や大部屋も嫌がることもある
2) Religion
日本でもいろいろな宗教がありますが
宗教を意識してケアしている看護師は
まだ少ない印象があります。
外国人は基本的に宗教があり、
生活や医療への影響は大きなものがあります。
治療やケア前に、宗教を軸に
DON'T(してはいけないこと)を
聞いて確認しておくことが大切です。
特に手術や輸血のトラブルが多く、
彼らの民間療法を否定するのもいけません。
例えば、
治療方針やケアプランの相談だけでなく、
豚抜きでハラル認証(イスラム認定)の食事の提供や
民間療法であるオイルマッサージの使用、
祈りの場所や時間までコーディネートして、
プロフェッショナルとしてケア提供しています。
敬虔なクリスチャンでは、
知り合いの牧師に面会してもらったり、
聖書を枕元に置いてくれと言う人もいます。
インド人はベジタリアンが多かったり、
モルモン教徒はカフェイン禁止だったり、
この手の話にはキリがありません。
宗教と習慣を聞いて、
そのつどインターネットなどで
調べる方法が良いと思います。
宗教的タブーを犯してしまうと
取り返しのつかないことになってしまうので、
なんでも気軽に本人に聞くことが大切です。
ムスリムの中には
いのちより宗教的規律の方が大切な人もいます。
テクニックとしては、
ただ聞きまくると一方的になるので、
「日本ではこういう価値観のもとに
こういうケアをしているけど、
おたくの国ではどうなの?」
とただの質問ではなく
文化の違いの会話にしてあげると
本人も自分の文化を話せる幸せと
日本文化を学ぶところが多く、
自然といろいろ話してくれます。
病院ほど文化が反映される場所もないですよね。
普段はあまり意識しませんが、
人間は誰しも国や地域、個人の文化の中で生きています。
医療という個別性=文化が無視される環境で、
この文化をいかに医療に取り入れるかが
プロフェッショナルとしての看護であり、
人々の尊厳を支え、QOL向上させる
一番の戦略になると考えています。
外国人をケアすれば、
否応なしに文化の差異に気づいて、
普段の日本人に対するケアでも
細かな文化や個別性を
大切にするようになったという
興味深いフィードバックもありました。
個人的にも外国人を受け入れると
病院全体のケアの質が向上すると思っています。
(現在STUDYを組もうと計画中です。)
でも本当は日本人でも
しっかりと宗教と習慣を聞いて、
個別的なケアを提供してほしいと思っています。
<まとめ>
・宗教と習慣が治療やケアに大きな影響を与える
・外人には必ず宗教を聞こう
・特に治療と輸血、食事に注意しよう
・わからないことは本人に聞く
次回に続く。