NEW NURSING

ハワイの疫学者が日本の医療について議論する記事です。

NEXT Health Care

次世代の医療へ

もうICUはいらない

日本に帰って、軽く仕事しつつ

のんびりと東京散策しています。

 

ハワイ23℃、東京27℃で

東京の方が暑いんですけど。

 

今回は、前にサラッと書いて

たくさんの問い合わせを頂いた

ICUは百害あって一利なし」

を根拠をあげて解説したいと思います。

 

「もうICUは、いりません。」

 

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最初に考えてほしいのが

「そもそも、ICUって、

 なんで必要なのでしょうか?」

「そもそも、ICUって、

 本当に必要なのでしょうか?」

という問いです。

 

ぼくら疫学者は客観的に

集中治療に関するデータを解析して、

ICUを解体したほうが患者が良くなる」

という結論に達し、実行しようとしています。

 

そこには、集中治療における

「5つのパラダイムシフト」があります。

 

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1) 否定されるエビデンス

 

今のICUでは

どんなケアや介入を行っていますか?

 

よくあるICUの介入を

10個くらいあげてみます。

 

# 院内心停止に対する脳体温療法

# 中心静脈圧による血液量評価

# 十分なエネルギー補給

# 早期からの経腸栄養

# 厳密な血糖コントロール

# 脳梗塞に対する早期ギャッジアップ

# 脳内出血に対する血圧降下療法

# 敗血症におけるEGDT

# 消化管出血に対する輸血

# 急性腎不全に対する早期CRRT(CHDF)

 

ICUではよく見る光景ですよね。

 

しかし、実は今あげた10個の介入は

臨床医学における最も権威のある研究雑誌

New England Journal of Medicine (NEJM)

にて優位な効果がないと示されたものです。

 

NEJMのホームページで

根拠の論文を検索してみて下さい。

 

正確にいうと、

ICUにおける集団全体では

 有意な効果が認められなかった」

ということです。

 

例えば、ICUの全患者に対して

NST(栄養サポートチーム)が

十分なカロリーを計算してから

経腸栄養を開始していますか?

 

実は、その従来の介入は

ICU患者の死亡率を下げずに

 合併症率を増やしている可能性が高い」

と評価されています。

(Lancet: NUTRIREA-2 Study, 2017)

 

Evidence Based Practiceでは、

最低限のエネルギー(kcal)を

できるだけ「遅く」開始して

静脈栄養で流すのが正解です。

 

それくらい

集中治療のエビデンスが変化しています。

 

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何が言いたいのかというと

ICUの看護師たちが効果がある

と信じて行なっているケアは

ほぼ効果がないということです。

 

むしろ、逆に

「死亡率をあげているかもしれない」

ということです。

 

衝撃的な事実です。

けど、マジです!

 

自分も敗血症のEDGTに

命かけてましたからね。

 

患者さんと納税者に

謝らないといけないですね。

 

ICUにおける介入のほとんどが

効果がないのであれば、

もはやICUはいらないですよね?

 

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2) 何もしないという介入

 

そもそも僕ら看護師が

大きく間違えていることがあります。

 

それは

「何かケアや介入をすれば

 患者さんの状態が良くなる」

という盲目的に信じている点です。

 

血圧が下がったから、血圧を上げてみる。

熱が上がったから、体を冷やしてみる。

 

これって本当に意味があるのでしょうか?

 

どんな介入やケアにも

利益(Benefit)と危険(Risk)があります。

 

ぼくたちは、自分たちのケアや介入が

患者の利益を生むと根拠なく信じていますが

実は逆にリスクになっていることも多いのです。

 

先ほどの続きですが、

ICU看護師は患者が早く回復するために

「十分なエネルギー(kcal)を

 自然に近い形で与えるべきだ」

と盲目的に信じています。

 

しかし、実際には

十分なカロリーを多くあげてしまうと

その栄養のせいで炎症反応が亢進して

重症化する患者が増えると考えられています。

 

また経腸栄養は

嘔吐や下痢などの合併症を優位に増やします。

 

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つまり、何か介入やケアをすれば

患者さんが必ず良くなるわけではないのです。

 

むしろ、何か介入やケアをすれば

患者さんを悪い状態にすることもあるのです。

 

ぼくたちは少し、自分たちの看護に

傲慢になりすぎたのかもしれません。

 

何もしないほうが

患者さんが早く回復する可能性があるのです。

 

「何もしないという介入」

 

おそらく一番勇気がいる決断です。

 

自分が脳低体温療法の患者を受け持った時に

「今日は清拭も体位交換もせずに

 筋弛緩と凝固が不安定なので

 積極的なモニタリングしていきます。」

と朝のカンファレンスで話したら

「清拭とか、何かケアしなさい!」

となぜか怒られたのを覚えています。

 

もちろん、何もしませんでしたが。

 

看護師として何かしてあげたい。

むしろ、何か介入しないとヤバイな。

という気持ちは共感できます。

 

でも、ぼくらはプロフェッショナルです。 

 

自分の意図ではなくて

仕事の結果のみで評価されるべきで

アウトカムが良くなるなら

「何もしない」

という選択肢を選ぶことも

時には必要なのです。

 

血圧が不安定なのに、

毎朝清拭して更衣して

体位交換する必要はないのです。

 

ICUでは最低限の呼吸器管理で

あまり栄養もいかず、体位交換もせずに

そのまま、そっと寝かせて観察するのが

効果的ではないかと研究され始めています。

 

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アメリカのICUでも

「Less is More」

(少ないほうが良い)

がキーワードになっています。

 

片っ端からECMOやPCPSを

回すのはもうやめにしませんか?

 

ひらすら介入するのは

医療者の自己満足です。

 

従来のエビデンスが否定され、

何もしない介入が効果があるなら、

もはやICUいらないですよね。

 

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3) 短期予後から長期予後へ

 

基本的にこの10年間

ICUにおける死亡率や合併症率は

ほぼ下がっていないと言われています。

 

つまり、これ以上

死亡率や合併症率を劇的に減らすことは

不可能に近い状況になってきたのです。

 

急性期看護では

救命かつ合併症を防ぐのは「当たり前」です。

 

今の時代は

「それ以上の何か」

が求められているのです。

 

ハワイ大学の学部生にICUの役割と聞くと

「死亡率を下げて、予後を改善すること」

と返ってきます。教科書的には正解です。

 

でも、

「死亡率や合併症率を改善するのは

 今は当たり前で、それは10年前の古い考え。

 まったくイケテナイ。かっこよくないね。」

と熱く怒っています。

 

続けて、

「今のICUでは、短期予後を保証しつつ

 いかに長期予後を改善するかが焦点なんだ。

 ICUを退室してから病棟に行き、

 家に帰って、仕事に戻るまでの長期予後を

 ICUの時点から改善するのが最先端なんだ。」

と偉そうに語っています。

 

それは短期予後の視点から

長期予後の視点へのシフトです。

 

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昔の集中治療では

死亡率とか感染率がアウトカムでした。

 

今の集中治療では

認知予後とか長期のADLがアウトカムです。

 

ICUに入室すると

身体要因と環境要因から

せん妄になりやすく

そのせいで認知機能が低下して

認知症になる高齢者や

従来の仕事に戻れない成人が

多くいることがわかっています。

 

さらに

全身性の炎症や筋弛緩薬、

リハビリの遅延から

全身の筋組織と末梢神経が

長期にわたり障害を受けることも

近年大きな問題になっています。

 

つまり、現在のICUのせいで

患者の長期予後が悪くなっているのです。

 

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つまり、これからのICU看護は

病棟で働く看護師を見習って

患者の退院後の生活を見据えて

認知症ケアなり、ADLリハビリなり

長期予後を改善するケアを

提供しなければならないのです。

 

歩かせたり、家族と議論したり

家での生活をアセスメントしたり

こういうケアが今ICUに必要なのです。

 

これからのICU

長期予後に焦点をおいて

病棟的なケアを展開すべきです。

 

じゃあ、ICUじゃなくて

病棟で良いですよね(笑)

 

だって、ICUに入室することは

せん妄や筋力低下、耐性菌などの

長期予後を悪くするリスクなのですから。

 

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4) QOLを中心としたケアへ

 

さらにICUに入室している際の

患者と家族のQOL

積極的に上げるべきなのです。

 

またNEJMの論文ですが、

ICUに入院した患者は1年後にも

PTSD不眠症状が続き、

その家族の一部は1年後にも

持続的なうつで苦しんでいること

が研究で示されています。

 

つまり、ICU

それくらい不快で

QOLを下げる場所なのです。

 

たった数日入室しただけで

1年後のQOLまで減る場所は

そうそうにないと思います(笑)

 

これもICUスタッフが

短期予後に焦点を当てて

患者や家族のQOL

最重要な課題としていない証拠です。

 

アラームがうるさい中で抑制されて

親にも子にも配偶者にも会えない

そんな環境が要因でしょう。

 

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ぼくも初めてアメリカのICU

見たときはくらいました。

 

家族はベッドの横のソファーで

常に一緒いるし、なんなら吸引してくれます。

 

患者は普通にtwitterしているし

音楽かけて看護師踊っているし

経口訓練はスタバのフラペチーノでした。

 

日本では、誰が何のために

家族の面会時間を決めたのでしょう?

 

日本では、なぜICUでは

看護師のみが吸引すると決めたのでしょうか?

 

日本では、なぜICUでは

スタバやコーラを飲めないと決めたのでしょうか?

 

日本のICUは独自のルールが多く

システムが縛られている気がします。

 

そのルールは患者のためでなく

医療者のために作られたものなのです。

 

そして、それによって

患者と家族のQOL

置き去りにされています。

 

だったら、そんな場所はもう

いらないんじゃないでしょうか?

 

ただし、逆に言えば、

ICUにおけるたった数日のケアで

1年後のQOLを劇的に

上昇させることも可能なのです。

 

よくも悪くもICU

長期予後やQOL

大きなインパクトを与えるのです。

 

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ICUは30年前には

診療科に関係なく重症患者を集めて

医療資源を集中的に投下するという

効率的なイノベーションでした。

 

今はその「集中」が悪い方向に働き

古い膠着したシステムとなり

新しい自由な考えを阻害しているのです。

 

今は病棟でも人工呼吸器含めて

かなり重症患者をみれるようになりました。

 

従って、重症管理はICUである必要はなく

各病棟が2床ずつICU的な病床を持ち

病棟が現在行なっている長期予後に焦点をあてて

患者と家族のQOLをあげるケアを提供すべきです。

 

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5) ICUの答えは、ICUにはない

 

声を大にしてICU看護師に言いたいです。

 

ICUの答えは、ICUにないだろ!

 いつまでICUに囚われてるんだよ!」

 

ICUの質を改善したいなら

ICUイノベーションが必要なら

ICUから「出て」いろいろと考えなさい。

 

ICUを退室した患者に会いに行って

ICUの経験がどうだったのか聞きなさい。

 

外来、病棟、オペ室に行きなさい。

 

ICUは他の部署に

どのような貢献ができて

他の病棟が持つ視点を

どうICUに応用できるのか学びなさい。

 

ICU → 病棟」ではなくて

「病棟 → ICU」が必要なのです。

 

この10年間

集中治療から新しい考えは出てきてません。

 

それは集中治療が

集中治療の枠組みで考えているからです。

 

知らぬ間に今までのシステムに洗脳され

自由で新しい発想を自分自身で阻害しています。

 

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ICUにいるとどうしても

目の前の血圧やシリンジポンプに目がいき

病棟や家族、退院後の生活が見えなくなります。

 

イノベーションのジレンマの典型です。

 

だから、ICUを一回忘れて、重症患者に対しての

最適な介入とケアは何なのか考えてほしいのです。

 

そもそも、

ICUという重症患者を集めて

管理するというアイデア

誰の論理で作ったのでしょうか?

 

患者さんの論理ではなく

医療者側の都合なのです。

 

重症患者を集めて管理した方が

「医療者」として楽なのです。

 

ただ、これまでつらつら書いてきた通り

患者としては最悪な環境になっているのです。

 

まさに「百害あって一利なし」です。

 

だから、もうICUはいらないのです。

そして、なくさないといけないのです。

 

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今ぼくら疫学者は

今、本気でICUを無くそうとしています。

 

たとえば、患者は

「外来 → 手術 → ICU → 病棟」

と医療者の都合に応じて

部屋を移動しないといけません。

 

つまり「患者」が

医療に合わせて動くのです。

 

ぼくらは今これを

逆にしようとしています。

 

患者は常に同じ部屋にいるんだけど、

その部屋が外来室になり手術室になり

ICUになり、病棟個室に変身するのです。

 

たとえば、

Yuitoが入院している部屋は

機材が毎日入れ替わって

今日は外来個室、

明日の朝には手術室、

午後はICUに変身して

あさっては病棟個室になるのです。

 

患者さんは

部屋を移動する必要はありません。

 

つまり、

「医療者」と「部屋の機能」を

患者さんに合わせて動かしていくのです。

 

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これができれば、理論的には

家の部屋を外来室、手術室、ICU、一般病棟

にできるので、病院がなくせます。

 

家の横にトレーラーのロボット手術室をつけ

遠隔で病院にいる外科医がダビンチで手術して

オペをした後は、家の一番大きな部屋を

ICUにして看護師を24時間滞在させる。

 

これが僕ら疫学者が考える

データからみる患者にとって最適な

次世代における医療のイメージです。

 

家にいれば長期予後もよくなるし、

QOLも高いままで感染症ももらわないでしょ?

 

だから、もうICUはいらないのです。

 

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どうでしたか?

 

衝撃的な内容で、

自分でこの論理をまとめた時に

自分で莫大なショックを受けました。

 

知り合いの集中治療医も

打ちのめされていました。

 

おれら、いらないじゃんって(笑)

 

日本のICU看護師の全員を

敵にまわしかねない内容ですが

これが前に書いた内容の本質です。

 

実際にどう思うのか

率直な意見頂けると幸いです。

 

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ICU不要説はいかがでしたか?

 

昨日は六本木から青山、渋谷を

「裸足」でランニングしてきました。

 

みんな、なんで靴を履いているの?

靴とか百害あって一利なしですよ(笑)

 

今は沖縄に帰る飛行機の機内です。

原点の沖縄で感謝を伝えてきます。

 

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