臨床疫学のオススメ本
仕事も少し落ち着き、
時間があるうちに記事を更新します。
今回のテーマは
「臨床疫学のオススメ本」です。
臨床研究をしたい中堅医師や
臨床疫学を学びたい上級実践看護師は必読です。
「疫学者」が教える
臨床疫学の「本物の」オススメ本です。
(主に日本語の本です。)
本当は教えたくないけど、特別ですよー(笑)
日本に帰った際には、必ず東京駅の丸善で、
疫学・医療統計の本をチェックしています。
ま、本業は「疫学者」ですからね。
最近は、臨床疫学のブームにのっかり、
軽い調子の小手先の本が多いのですが、
今回は、本当に深みのある本を選びました。
日本に帰った時に、某大学院でこっそりと
臨床疫学の補講を行なっているので、
その学生たちにも読んでほしい教科書です。
臨床疫学とは、
「臨床現場における研究に、
しっかりとした疫学の方法論を適応した」
比較的新しい学問の領域になります。
ぼくらの新しい世代は
「臨床研究に疫学の方法論を適応するなんて
当たり前すぎで、とても自然なことだろー。」
と思っています。
しかし、自分の上司も含めて上の世代では
「臨床研究は、臨床医が経験のみで研究していて
まったく科学的でない世界よ。疫学とは呼ばない。」
とかなり批判的な意見を多く聞きます。
まず、臨床疫学を学ぶポイントが3つあります。
1) 臨床で「臨床疫学」と「医療統計」を乗り切ろうとしない
まず、臨床疫学は、完全に「疫学」です。
従って、「臨床経験」で乗り切ろうとせずに、
しっかりと謙虚にイチから「疫学」を学んで下さい。
また、医療統計は、完全に「統計学」です。
従って、「医療」で乗り切ろうとせずに、
しっかりと謙虚にイチから「統計学」を学んで下さい。
臨床経験は臨床疫学では、ほとんど役に立ちません。
むしろ、バイアスになり、足かせになります。
だから、まずは非常に逆説的ですが、
自分の臨床経験と離して、勉強して下さい。
これは自分への戒めでもあり、
臨床疫学を学ぶ上で一番大切な姿勢です。
残念ながら、数学者や物理学者の方が、
ぼくら臨床経験のある医療者よりも
よっぽど科学的に「臨床疫学」を研究できるのです。
ちなみに、アメリカの場合、
本気で「疫学」を学ぼうとすると
「毎日フルタイムで勉強して早くて3年」
さらに「医療統計」の場合は、
「どんなに早くても5年はかかる」
と言われています。
それくらい専門的で深い領域なのです。
2) 疫学・統計は講義を受けて勉強すべき
疫学のダメなところは
簡単なことをやたら難しい専門用語で
説明しようとするところです。
標準誤差?交絡因子?層別化?
これらは英語を日本語に訳す際に
非常に難解になってしまっただけで、
実はとても単純な概念を説明しています。
また人年法やオッズ比、ハザード比など
疫学特有の考え方は、講義を聞いた方が
10倍早く勉強できると思います。
疫学者が授業下手なのは世界共通です(笑)
本で勉強するのも大切ですが、
機会があったら疫学の講義に参加すること
または先輩にすぐに聞くことをオススメします。
今年の夏くらいに数日間の
純粋な疫学コースを組めたら良いなと考えています。
そんなマニアックなコースに
参加してくれる人いたらの話ですが(笑)
3) 実際にプロジェクをやりながら勉強する
やっぱり疫学・統計は
実際にデータを使って行動しながら
勉強しないと身につきません。
理解できるのと
実際に実践できるのには大きな壁があります。
自分のクラスでは、講義で学んだアイデアを
疫学はオープンデータを使って実際に解析しつつ
医療統計は鉛筆とPCで実際に計算しつつ
実際に実践できるように指導しています。
すると本当の意味で
臨床疫学が身につきます。
なので、今からオススメする3冊を読みつつ、
ちいさなデータでも良いので、
自分の現場で実際に「臨床疫学」を
やってみるのが一番の近道となります。
完璧である必要はありません。
失敗して、だんだんうまくなるのです。
では、オススメ本、基礎編の3冊です。
# ステップアップEBM(名郷直樹)
一番教えたくない、業界の裏名著です!
自分はこの本で英語論文の読み方、
EBMや臨床疫学の基礎概念を学びました。
ステップアップEBM実践ワークブック―10級から始めて師範代をめざす
- 作者: 名郷直樹
- 出版社/メーカー: 南江堂
- 発売日: 2009/07
- メディア: 単行本
- クリック: 11回
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英語論文を読みたい人や
臨床論文の正しい解釈を学びたい人に
オススメできる良本です。
# 英語論文の正しい読み方
# p値と信頼区間の意味と評価
# バイアスの種類と評価
# NNTなど実際の臨床への応用
が具体的な論文を使いながら、
丁寧に説明されています。
臨床疫学よりはEBMですが、
臨床疫学の基礎を作ってくれます。
この本をしっかり読めば、
臨床の英語論文は、疫学的なポイントを押さえて
しっかりと評価できるようになります。マジで。
多くの中堅医師たちにも勧めましたが、
「今後の臨床の転機になる本だった」
というコメントを多くもらいました。
岡田も大きな影響を受けて、
毎日、英語論文を片手に臨床してました。
なぜ、こんな名著が売れてないんだー。
前提知識と本のスタイルには、
合う合わないがあると思うので、
一度、手にとってからご購入下さいね。
が、個人的には、即買いです!
日本語の臨床疫学の本で一番良かったかも。
名郷先生、リスペクトしています。
# 今日から使える医療統計(新谷歩)
医療統計を数式を使わずに
正確に伝えられる新谷先生はハンパないです!
疫学や医療統計の基本で
今更聞きにくい基本が網羅されている良本です。
# 非正規分布の記述のしかた
# 信頼区間の意味
# 2郡検定の基礎
と、臨床の統計で困るポイントを
Q&A方式で、きれいに解説していきます。
痒いところに手が届くとは、このことか!
個人的には教え方の勉強として熟読しています。
非常に読みやすいので、
医療統計はまずはここから始めると
アレルギーなく進められると思います。
読みやすいですが、実は小手先でなく、
しっかりとした内容を語っている本です。
# みんなの医療統計(新谷歩)
(12日間で基礎理論とEZRを完全マスター)
PCを使って、実践的な解析方法を学びたい人は
新谷先生のこちらの本もオススメです。
みんなの医療統計 12日間で基礎理論とEZRを完全マスター! (KS医学・薬学専門書)
- 作者: 新谷歩
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/03/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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統計ソフトであるRを
(岡田の大好きな相棒です。)
EZRというフリーソフトを使って
簡潔に解析していく方法がのっています。
この本の指示通りにセットするだけで、
自分のPCで基本的な解析ができるようになるし、
また同時に統計のポイントも教えてくれるます。
上記の2冊があれば、
医療統計の理論と実践が、
しっかりと身につくことは間違いないです。
岡田もまだ読んでいませんが、
さらに応用編の多変量解析版もあります。
みんなの医療統計 多変量解析編 10日間で基礎理論とEZRを完全マスター! (KS医学・薬学専門書)
- 作者: 新谷歩
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/05/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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やっぱり最終的には、
# 数式を使った統計学
# Rプログラミング
を学んでほしいと思います。
# 必ずアクセプトされる医学英語論文(康永秀生)
臨床疫学の英語論文を書きたい人には、
日本の臨床疫学リーダーの本がオススメです。
日本人が無理せずに正確に英語を書けるように
的確なポイントを丁寧に指導してくれています。
しかも、臨床疫学のポイントも入っており、
英語の論文を書きたい人は必ず読みたい1冊です。
英語論文の本は小手先のものが多いのですが、
こちらは人生で使える本当のテクニックが
ギッシリと濃縮されています。マジで。
もっと、早く出版してくれれば、
自分はもっと楽できたのに(笑)!
研究者が書く論文構造の知ることで
英語論文を正確に読めるようにもなるので、
とりあえず、買って欲しい1冊です。
上級実践看護師は
もっと英語でケースレポート書きましょう!
セールスマンみたいになってきたぞ(笑)
疫学に対する純粋な愛です。
ここまでが、ゴリ推ししたい3冊です。
これらの本を紹介した中堅医師がみな
「超、ヤバかった。さすがユイト。」
と言ってくれたドヤ顔の3冊でした。
テンションあがってきたので、
少し中上級者向けの3冊も紹介します。
ここからは完全に個人の意見です。
# オオサンショウウオ先生の医療統計セミナー
(田中司郎、田中佐智子)
去年読んだ本でベストでした。
医療統計中心に臨床疫学も
ホットなトピックを解説してくれています。
岡田が知りたいトピックばっかりでした。
ビルボードチャートより、俄然HOTです!
短期集中! オオサンショウウオ先生の 医療統計セミナー 論文読解レベルアップ30
- 作者: 田中司朗,田中佐智子
- 出版社/メーカー: 羊土社
- 発売日: 2016/10/27
- メディア: 単行本
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添付されている英語論文を読んで、
その論文の読解ポイントを
スピーディーに解説してくれています。
# RCTの読み方
# メタアナリシス
# Propensity Score
という今話題のトピックを解説してくれる
実践的な論文読解&医療統計の本です。
中級編な印象ですが、
ポイントを短くまとめているので、
さらに臨床疫学を勉強したい人に最適です。
ひさびさの良書です。
# 臨床研究の教科書(川村孝)
すごい本質的な本が、下火なのはなぜ?
「すぐわかる」という言葉に騙されてはダメです。
疫学では
「悩んだ分だけ、本当の実力になる」
と言われています。
これは臨床疫学の教科書にふさわしい本です。
数多くの論文を出しているので説得力があるし、
実際の解析で困るポイントを的確に指導してくれます。
# 研究デザイン全般
# 打ち切り例の処理
# 多変量解析の評価方法
と自分が読んでも勉強になりました。
臨床研究を行う前に手にとってほしい1冊です。
個人的にも何度も読み直しており、赤線ばっかです。
# ロスマンの疫学(ロスマン)
でました!
疫学のグル、ロスマン博士です。
疫学をやっている限り
ロスマンからは逃れられません(笑)
超難解です。
全然イントロダクションではないです。
買うことは全くおすすめしません。
でも、疫学的に、超良本です。
疫学全体をレビューする構成で
# 疫学の歴史
# 多因子の因果推論
# 疫学指標の思考
など、純粋な「疫学」のみ議論されています(笑)
疫学の思考が、厳密さが、体験できる1冊です。
疫学の概念と日本語単語も難しいのですが、
英語の原著で読んでも読みにくいです(笑)
しっかりと疫学を学びたい人にはオススメです。
おそらく、初めは意味不明に感じると思います。
一人でしっかり読んだら1年はかかると思いますが、
読み終わったら、疫学の基本的思考は身につきます。
しかーし、この本はただの導入本で、
ロスマンのメイン疫学はこちらです。
(日本語訳なし。英語がいいと思う。)
- 作者: Kenneth J. Rothman,Timothy L. Lash Associate Professor,Sander Greenland
- 出版社/メーカー: LWW
- 発売日: 2012/12/28
- メディア: ハードカバー
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疫学における「神本」ですが、
この本を読み終えるのに3年かかりました。
アメリカでも疫学博士の必読本ですね。
ちなみに、数学の本も読み終えるのに
ちゃん毎日読んでも数年かかります(笑)
2年間ずっとカバンに入っているという。
なんじゃ、それー。
この本は、1文1文濃縮され重すぎですが、
この本を極めれば、疫学者になれます。
このレベルまで疫学をやって
臨床研究をやれば、それはまさしく臨床疫学です。
ということで
臨床疫学のオススメ本3冊と
中級者向けのオススメ3冊でした。
はじめの3冊は勢いで買って下さい(笑)
責任は取れませんが、
英語で論文を読んだり書いたりするのは、
最低限これらの3冊のレベルは必要です。
後半3冊は絶対に勢いで買ないで下さい(笑)
特にロスマンは、
絶対に、絶対に勢いで買わないでね。
(と言われると、書いたくなりますねー)
それぞれのレベルもあるし、
また本には合う合わないがあるので、
実際に手にとってから判断して下さい。
日本発のエビデンスを
英語で世界に出していくのが
ぼくらの時代の「臨床疫学」です。
がんばっていきましょうー。