看護師と死亡率
ハワイも雨期のせいで
天候が不安定になってきました。
日本とアメリカの両方から
税金の年末調整が送られて来て、
医療データは興奮して解析できるのに
経理の計算は気持ちが進まず、
自分の感情も不安的な今日この頃です。
さて、今回は、自分のまわりで
かなり話題になっていた論文を
取り上げて解説したいと思います。
某急性期CNSから、
LINEで論文が送りつけられてきました(笑)
サンキュー。ってLINEかい!!
超簡単にまとめると
「日本のICUにおいて、認定看護師と専門看護師は
人工呼吸器患者の死亡率減少に寄与しているのか?」
というテーマの論文になります。
Citationは、
Journal of Critical Care 41(2017); 209-215より
"Association between advanced practice nursing
and 30-day mortality in mechanically ventilated
critically ill patients. A retrospective cohort study."
「上級実践看護と急性期人工呼吸器患者における
30日間の死亡率との関連:後ろ向きコホート研究」
と、英語論文ですが、日本における研究です。
筆頭の著者は、Kojiro Morita, RN, MPHです。
(RN = 看護師、MPH = 公衆衛生学修士)
ポイントのみ解説しますので、
興味ある人は、オリジナル読んでみて下さいね。
- Introduction
1) Nursing Staff and Education
看護師の人材配置と教育については、
労働環境の因子も含めて、様々な研究において
患者アウトカムを改善することが示されている。
2) Advanced Practice Nurse
上級実践看護師(APN:Advanced Practice Nurse)は
アメリカにおけるメタアナリシスにおいて、
在院日数を短縮し、医療コストも削減できると
その関連性とインパクトが評価されている。
3) APN in Japan
世界的にもAPNと死亡アウトカムに
関する研究は調査されておらずに、
さらに認定・専門看護師をメインとした
日本の上級実践看護師に対しても、
そのアウトカム評価も、ほとんどなされていない。
- Purpose
本研究の目的は、DPCデータを使用して
「ICUにおける認定看護師と専門看護師の存在が、
急性期人工呼吸器患者の30日間における死亡率と
どのような関連性にあるのかを検証すること」
である。
- Study Population
医療政策の論文ですが、
ここからのフレームワークは、
アメリカの疫学的な論文の読み方となります。
参考にしてみて下さい。
1) Inclusion
2014年4月から2015年3月までの
包括医療費支払い制度(DPC)データをもとに
# 18歳以上
# 入院から2日以内にICUに入室し
また人工呼吸器による管理
となった患者を対象とした。
ちなみに、DPCデータには
急性期病棟の約50%が参加しており
大学病院は義務で、市中病院は任意である。
ICUの背景データに関しては、
医療機関機能に関する2014年資料を参考として
成人のICUのみに対象を絞った。
2) Exclusion
# 妊婦
# 1日以内のICU入院
を除外した。
- Exposure
ここでは、上級実践看護師としては、
# 集中ケア認定看護師 (CN; Certitified Nurse)
# 急性・重度患者専門看護師 (CNS; Clinical Nurse Specialist)
と定義したうえで、
看護協会による2014年データから
それぞれの病院における
上記の認定・専門看護師の数を確認した。
独立変数としては、
「ICU10床あたりの上級実践看護師の数」
と人材の密度を計算した。
- Outcome
従属変数(アウトカム)としては
「30日間における死亡率」
として、独立変数との関連を調べた。
つまり、
「上級実践看護師の密度」⇄「30日間の死亡率」
の関連を調べるロジックです。
- Confounder
交絡因子として、
以下のものを測定し調整した。
「患者因子」
# Age(年齢)
# Sex(性別)
# Smoking(喫煙)
# BMI
# Barthel Index (ADL)
# Level of Consciousness(意識レベル)
# Augus Organ Failure Score(臓器不全スコア)
# Type of Admission(入院形態)
# Ambulance Use(救急車使用)
# Previous Location(入院前の住居)
# Home Based Care Use(自宅でのケア)
# Reason for ICU(入院の理由)
# Primary Diagnosis(主な診断分類)
# Blood Trasfusion(輸血の発生)
# Vasopressors and Inotropic Agents(昇圧剤の使用)
# Antibiotics or Antifungal Drug within 2 days
(抗菌薬と抗真菌薬の早期使用)
「病院背景因子」
# Hospital Type(病院形態)
# Tertiary Care Center(三次救急)
# Number of Beds(ベッド数)
# Presence of Intensivists(集中治療医)
# Patients to Nurse Ratio(看護人材密度)
# Hospital Volume(病院規模)
- Stastical Analysis
ロジスティック回帰分析を行い
病院内のクラスターによる誤差を考慮した。
また欠損値が多いので、
多重代入法により欠損値を補完した。
さらに集中治療医の存在を考慮するために
層化してサブグループ解析を行なった。
- Results
最終的な解析対象者は、
418病院における46,620人となった。
上級実践看護師が「いない」ICUには
19.6%の8,955人の患者が入院し、
上級実践看護師が「いる」ICUには
80.4%の36,665の患者が入院した。
上級実践看護師が不在のICUでは、
# 高齢者
# 喫煙者
# ADL比較的自立
の患者層が多く、また
# 意識障害
# 多臓器不全
# 輸血開始
が患者層が少なかった。
交絡因子で調整する前の30日間の死亡率は、
(Unadjusted Mortality)
# 上級実践看護師なし = 24.9%
# 上級実践看護師あり = 21.5%
であった。
またICU在院日数の中央値は、
# 上級実践看護師なし = 5日
# 上級実践看護師あり = 5日
と同じで、その期間での非調整死亡率は、
# 上級実践看護師なし = 15.8%
# 上級実践看護師あり = 14.0%
であった。
「ICU10床あたりの上級実践看護師の数」
「30日間における死亡率」の関連性の
交絡因子で調整した後のオッズ比は、
(AOR: Adjust Odd Ratio)
AOR = 0.97(0.94-1.00)
p value =0.023
と「有意に減少傾向」であった。
<注 釈>
p valueからすると、小数点を丸めたと考えらます。
本当は、0.999999的なかんじ。
<解 説>
つまり、ざっくり言うと
「上級実践看護師の存在は
ICUにおける急性期人工呼吸器患者において
30日間の死亡率減少と関連していた」
という解釈になります。
また、調整済みオッズ比より
「ICU10床において上級実践看護師が1人増えると
その患者の死亡率のオッズが3%減る関連にある」
ということになります。
つまり、 ICU10床で
3人の上級実践看護師が増えることが、
死亡率の「オッズ」が「約9%減少すること」に
「関連する」という計算になります。
<追記>
オッズがわかりにくいので、
さらに電卓で計算すると
「上級実践看護師が1人増えることと
約2.91%の死亡率減少が関連している」
「上級実践看護師が3人増えることと
約8.26%の死亡率減少が関連している」
という結果の解釈になります。
- Discussion
著者の記述するところでは、
# 上級実践看護師と患者アウトカムの関連性を
日本で初めて明確に示した研究
が強みであり(本当にそう思います)、
その関連に寄与していた理由は、
上級実践看護師が
1)直接質の高いケアを提供している
2)教育などの間接的な影響を与えている
3)Evidence Based Practiceを波及させている
4)ICUユニット全体の改善マネジメントをしてる
ことによるものと考えるとされています。
またLimitationとしては、
# 潜在的交絡因子がまだあること
# 特に病院による違いが大きいこと
# 診療報酬データであること
# DPCに参加している病院に限定される
# 看護師の労働環境が測定できないこと
をあげています。
- まとめ
さて、この論文はいかがだったでしょうか?
よかったら、近くの看護学生や認定看護師、
専門看護師とシェアして、議論してみて下さい。
テーマがとても野心的な試みだし、
これだけのデータをクリーニングしたのは
ほんとうに超絶大変だったと思いますので、
お疲れ様でしたと、大きな敬意を評します。
(本人にも勝手に連絡させて頂きました。)
ポイントは医療政策として、
この論文をどう使うかが一番のポイントだと思います。
上級実践看護師が、
患者の死亡率減少と有意に関連があるので、
「認定看護師と専門看護師を
高めの診療報酬にしやがれ!!」と
中医協を説得してほしいものですね。
個人的には、
診療報酬データにおける議論と
多因子調整の医療政策研究の文化が
疫学と異なるので、とても興味深いです。
いずれにしろ
認定看護師や専門看護師が主になって
大規模な患者レジストリーかRCTを組んで、
かなり強いエビデンスを示さないと
近いうちに存在意義が消滅すると思います。
ぜひ、この論文を詳しく読んでみて下さいね。
英語はやれば、できる!!
医療英語勉強するいい機会だと思います。
最近シンガポールでの仕事が増えてきました。
ハワイじゃないのかいー!!