看護とラボ
疫学と医療統計では、
最終的には「数学」が不可欠になります。
アメリカにおいて疫学者になるには
基本的に医療的な免許は必要なく、
疫学修士で「疫学者」と認定されます。
なので、疫学者の背景は多様であり
数学者や物理学者も多い領域で
いつも新しい刺激をもらっています。
自分も週末に、まとまった時間ができたので
4時間かけて「とある数学の証明」を完了し
非常に満足して、夜ご飯がおいしかったです。
人間にはイメージできない次元の論理なので、
普通の人には暗号にしか見えないと思います(笑)
今回は前から議論したかった
「看護とラボ」がテーマです。
「ラボ(Laboratory)」とは
なんとも日本語訳しにくい単語で、
「実験室」か「研究室」
という表現になると思います。
ラボ(Lab)は、
# Wet Lab(薬品などを使う実験室)
# Dry Lab(コンピューターでの実験)
の2つに大別できます。
自分の部屋は、スーパーコンピューターで
疫学と医療統計を解析しているので、
"Yuito's Dry Lab"のと呼ばれています。
自分はほとんど実験しませんが、
自分が担当するコホート研究専用の実験室があり
Biosafety Officer(安全対策委員長)をやっています。
上司が管理者ですが、自分の存在感が大きく
最近では"Yuito's Wet Lab"と呼ばれています。
上下が写真になります。
疫学者は実験室との協働が不可欠で、
特に感染症疫学時代は、かなりお世話になりました。
今でも感染症のHot Spotに派遣されると、
まずは、患者の血液や体液を自分で採取して
また気になる水や蚊などのサンプルを採取し、
自分の信頼できるラボに送りまくります。
他人が採取したバイオサンプルと
他人が現場で集めたデータは
基本的にあまり信じていません(笑)
今はコホートしている対象者から採取した
血液や癌組織などのサンプルが集まってくるので、
ラボスタッフが随時分析しています。
自分は実験は、基本的なことしかできないです。
また、ハワイ州保健局のラボにもお世話になっています。
ハワイ州のラボでは、公衆衛生的なものが多く、
みなさんが泳ぐであろうワイキキビーチの海水や
ローカル野菜の残留農薬、粉ミルクの成分分析まで
優秀なスタッフがサクッとやってくれます。
みなさんがハワイを安全に旅行できるのも
ハワイ州のラボとぼくのおかげです(笑)
ラボスタッフのほとんどは
生物学系の修士を終えたスタッフで、
基礎医学にとても詳しい人材です。
農学も厳密にラボで実験しているし
栄養学のラボ分析もかなり進んでいます。
では、質問です。
「看護にはなぜ
基礎医学系実験室がないのでしょうか。」
意味不明だし、絶対に必要です。
おそらく、看護学が科学として
確立されない大きな原因のひとつです。
医学・薬学・生物学と同じレベルで議論するには、
in vivo(細胞ベース)、in vitro(動物ベース)で
実験ベースの議論をしないと話にすらなりません。
特に基礎看護系の介入である
# CVの消毒頻度や効果的な消毒液
# 創部に対するドレッシングの選択
# 凝固系異常の対位交換や体温管理
などは、実験で効果的に結論が出せます。
むしろ、
ラボで実験やって、現場でRCT組まないと
看護の介入は、一生ずっと曖昧なままです。
では、
実験もしない、大規模レジストリーもしない
日本の看護学はどこを目指しているの?
まずは、学生のうちから
病院や大学の検査室にあるラボを借りて、
しっかりと基礎医学系の研究をしましょう。
そして、最終的には
看護学専用の実験ラボを作りましょう。
そこから医学・薬学・生物学へ
新しい見地を提供することも可能と思います。
この原因は、何よりもまず、
実験できる教員が少ないことです。
古い看護学の人たちが、
「看護は、医学と違うのよ。」
と言っていた負の遺産でしょう。
どう考えても
看護学は生物学の一部です。
また看護の大学院生には
医学生と同様の解剖学実習も必要でしょう。
「百聞は一見に如かず」
実験も解剖も、実際にやってみるのが
最も効果的な勉強方法です。
ぜひ、看護学専攻の大学院生は、
ラボ実習と解剖学実習を必須にしませんか。
そしたら、けっこう変わると思うけどな。
- 看護学のほとんどは科学ではない
こういうこと書くと
批判のメールがたくさん来るのですが、
ま、事実は事実として認識しましょう。
アメリカでも
看護は、看護を科学だと思っていますが、
他の領域からすれば、
看護は、まったく「科学」ではありません。
おそらく、看護と他の領域における
「科学」の定義のレベルが違うことが原因でしょう。
自分自身も
大学では薄井の「科学的看護論」に感動し、
また大学院時代も、「看護は科学だ」と教わり
当時は、かなり信じていました。
信じた理由は、
他の科学を知らなかったから(笑)
ただ疫学を学ぶ上で必要な
などの授業を受けると
「あ、看護は完全に科学じゃないや。」
と科学のレベルの違いに驚きました。
このように、数学や物理学、生物学などの
厳密な科学(ハード・サイエンス)と比べると
「看護学のほとんどは、科学ではない」
ことは、明確な事実でしょう。
理由は2つあります。
まずは、「厳密な論理展開の欠如」です。
科学は、定義して、定理を証明して、
それを応用して、問題を解いていきます。
そして、さらに応用できるように
弁証して定義や定理を拡大していきます。
しかし、看護学の場合、
定義や定理の提示がなく、
論理が曖昧で、厳密性に欠けます。
次に、「臨床を考えすぎている」ことです。
理論は理論のみで考えないと
現場に縛られて、適応範囲が狭くなります。
看護理論が臨床で使えないのではなくて、
看護師が看護理論を理解できていないだけです。
紙とペンだけで看護を定義して、
厳密な論理展開で他の領域の人を
納得できなければ、科学ではありません。
(これを初めてやった人がロジャースです。)
もちろん、
一部の看護はとても科学的です。
自分のまわりの疫学者たちも
# マーサ・ロジャース看護理論
(Theoretical Basis of Nursing)
# オレム看護理論
(Self Care Deficit Nursing Theory)
# グランテッド・セオリー
(Grounded Theory Approach)
は、「天才だ」と大絶賛しています。
ロジャースの看護理論名は、
数学の基底(basis)を意識しているし
オレムの看護理論は、
前提条件(Assumption)と中概念(Subconcept)
を理解することが鍵となります。
大学院生の時に両方とも英語で読みましたが、
これらをしっかり理解している日本人は、
自分を含めて5人もいないでしょう(笑)
グランテッドにおけるサンプリングは
疫学サンプリングの真逆を戦略的に進めるので
自分にとっても「革命」に近かったです。
これらは、看護学における
本物の科学(サイエンス)だと思います。
ここまでデキルのだから、今一度
「看護学全体を本当の科学にする」には
どうすべきか戦略を考える必要があるでしょう。
もう、プライドだけで、
「看護学は、科学です」
というのはやめましょう。
- 看護学の純粋培養はもうやめよう
看護学は今、完全に行き詰まり、飽和しています。
つまり、今の看護学の問題は、
「看護学しか知らない人が科学を語っている」
ということに尽きるでしょう。
# 看護しか知らないからラボもできない
# 看護しか知らないから他の科学と比較できない
# 看護師しか知らないからイノベーションがでない
自分自身も大学3年生から看護を学び
疫学者として活動していなかったら、
看護しか知らない人になっていたと思います。
看護の研究者はどんどん外に出るべきだし、
看護以外の研究者を看護に呼び込むことが必要です。
学生のうちからも
看護以外の幅広い科学の領域を選択させるべきでしょう。
また大卒からの看護師を目指す人も増えたので、
かなりシナジーできるなと大きな期待もしています。
これらは必ず、将来的に
看護学が科学として確立する際に役立つことでしょう。
特に、看護以外の大卒から看護師になった人材を
どう戦略的に使うかを議論しなきゃいけないのに、
なぜか冷遇して、客観的な評価をドブに捨てています。
「愚の骨頂」です。
将来的には、自分もロジャースのように
数学と理論物理学をもとに紙とペンだけで
看護学を論理展開したいと思っています。
ロジャースがBasisを定義してくれたので、
あとは行列を定義して、カチャカチャやるだけです。
いろいろと話が逸れましたが、
今回は、「看護とラボ」でした。
看護界も問題が多くて、
どこから変えたらよいのか
なかなか謎になってきました。
だけど、ぼくは非常に楽観的で
近い将来、革命を起こしてやろうと企んでいます。
大学院卒の優秀な看護師も増えてきたので、
そろそろ精鋭部隊でも組織して、戦略練りますか。
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