NEW NURSING

ハワイの疫学者が日本の医療について議論する記事です。

NEXT Health Care

次世代の医療へ

ナイチンゲール伝

今回はブレイクとして

最近読んだオススメ本を紹介したいと思います。


エルサレムの章でも書きましたが、

聖母マリアにより「看護が母性から一部解離した」以後、

1800年代後半のナイチンゲール登場まで

「看護の概念」が世間に示されることはありません。


約1800年の空白が、ここにあります。


そして、ナイチンゲールが、

まだ看護は母性の一部として扱われますが、

「看護を専門的な概念」として

初めて世の中に文章として提示したことで

現代の意味での「看護」が確立されます。


まだナイチンゲールが死んでから100年であり、

いかに看護の概念が若いかが理解できると思います。


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そんなナイチンゲールの一生は

あまり知られていませんが、

言葉で言い表しにくい「激しさ」に満ちあふれています。


個人的な思い出としては、

中東の紛争地で任務に就いているイギリス人衛生兵が

ナイチンゲールが軍事医療を確立したんだぜ。」

と衛生部隊の祖としてのナイチンゲールを熱く語っていたし、

海外の公衆衛生の教科書では、

「疫学の父はジョン・スノウで、疫学の母はナイチンゲール。」

という記述もあり、海外では看護よりも

公衆衛生の人たちの尊敬を集めている気がします。


そんなナイチンゲールの一生が

マンガで読める専門的な本として出版され、

Amazonや書店でかなり売れています。


医学書院による「ナイチンゲール伝」


純粋におもしろいし、

読みやすくて勉強になります。


内容としては

ナイチンゲールの生涯

・看護覚え書き

がマンガとして描かれています。


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今まではナイチンゲールの生涯を

しっかり復習したいと思っても

・小学生向けの簡単なマンガ

・難解極まりない専門書

という両極端な本しかありませんでした。


最近はこれが人気らしいです。


定番で今さら読みたいですね。


有名な専門書で大学生時代に読破しましたが、

かなり難解かつ大容量で、上級者向けです。


簡単な本では、奉仕の精神が強調されすぎるし、

難解な本では、細かい話で疲れてしまいます。


しかし今回の本では、

ナイチンゲールの生涯が2時間くらいで

映画のようにさらーっと概要がつかめるので、

非常に効率よく、ナイチンゲールを再考できます。


東京散歩している電車の中で完読できたし、

おもしろかったので、さらに3冊買って、

すべて贈与したので、今は手元にはありません(笑)


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この本で改めて理解する「3つのナイチンゲール


1) ナイチンゲールは貴族だった。


有名な話ですが、

・季節に応じて住む家を変える

・パーティー三昧の日々

・年間通しての長期の海外旅行

「どんだけ金持ちなセレブなんですか?」

とツッコミたくなるような貴族ぶりで、

数学と語学の天才ぶりが明らかになります。


それなのに、当時は貧民の仕事であった看護の道に

貴族の身を捨てて、身内からの批判をも超えて、

邁進していこうとする意思の強さは圧巻です。


ここでもキリスト教と看護が一緒に走っています。


2) ナイチンゲールは医療統計家だった。


あまり知られていませんが、疫学の世界では有名な話で

1000人当たりの死亡率や感染症罹患率

初めて計算した人としてナイチンゲールは知られており、

その概念は未だに疫学の主流となっています。


感染症や死因の概念そのものが曖昧だった時代に

「数字」を使って事実を記述して比較していく

Evidence Basedな研究を初めて行ったのは、

かの有名な「クリミア戦争」においてです。


この数字による議論が評価され、

陸軍のアドバイザーとして軍事医療の確立者として

イギリスでは知られていきます。


ナイチンゲール

「数字」というエビデンスを使用して看護を確立したのに、

日本の看護は数字やエビデンスを無視して

「経験や勘」でケアしているので、

日本の看護界がこの本を読んで、ナイチンゲール

「奉仕家」ではなくて「理論家」として

捉え直してくれることを切に願っています。


3) ナイチンゲールはヒステリーだった。


だいぶ厳しく、気性が荒かったことも有名で、

本人はケアがうまいわけではなかったらしいです。


しかし、ここまですさまじいとは、

この本を読んで初めて知りました。


かなりこだわりのある性格で

人の使い方はうまくないし、なんでも文章化するし、

聖人ではない人間的なナイチンゲールが描かれており、

ナイチンゲールが身近な存在になります。


いつから看護は私生活まで聖人であることを

強制するようになったのでしょうか?


日本看護独自の文化ですね。


ナイチンゲールはその生き方から

「看護師は決して聖人ではない」

と伝えてくれているように感じました。


ということで、気楽にマンガとして

ナイチンゲールの一生を読んでみて下さい。


期待以上のおもしろさがあり、

予想以上に勉強になる本です。



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