NEW NURSING

ハワイの疫学者が日本の医療について議論する記事です。

NEXT Health Care

次世代の医療へ

壁と卵

さまざまな本を読んでいると、

「それって看護やケアのことを示しているんじゃない?」

と思う事が多々あります。


特に、村上春樹の小説を読んでいると、

ケアの本質を引きずり出されることが多いです。


現代ではブッチ切り一番の日本人作家

村上春樹」の中で、ぜひ読んでほしいのが、

エルサレム賞受賞スピーチ「壁と卵」です。


「システムに埋もれる個の尊厳」を主題としています。

人生や看護に通じる重い言葉たちです。


→ 以下引用(省略もあります)


ひとつだけメッセージを言わせて下さい。

個人的なメッセージです。

これは私が小説を書くときに、

常に頭の中に留めていることです。


紙に書いて壁に貼っているわけではありません。

しかし頭の壁にはそれは刻まれています。

こういうことです。


もし、ここに硬い大きな壁があり、

そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、

私は常に卵の側に立ちます。


そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っていたとしても、

それでもなお私は卵の側に立ちます。

正しい正しくないは、他の誰かが決定することです。

あるいは時間や歴史が決定することです。


もし、小説家がいかなる理由があれ、

壁の側に立って作品を書いたとしたら、

いったいその作家に

どれほどの値打ちがあるでしょう?


→ 引用終了


自分の全人格にせまってくる表現であり、

これは看護の潜在的な本質そのものでしょう。


こうは読み替えられないでしょうか?


「もし看護師がいかなる理由があれ、

 壁の側に立って、ケアを展開したとしたら、

 いったいその看護師に

 どれくらいに値打ちがあるでしょう?」


小説家は物語をつむぐことによって、

看護師は臨床でケアを産むことによって、

「卵の側に立ち続ける」という

同じ役割を担っているのですね。


→ 以下引用(省略もあります)


そこにはより深い意味もあります。

こう考えてみて下さい。

我々はみんな多かれ少なかれ、

それぞれにひとつの卵なのだと。


かけがえのない一つの魂と、

それをくるむ脆い殻を持った卵なのだと。


私が小説を書く理由は、

煎じ詰めればただひとつです。


個人の魂の尊厳を浮かび上がらせ、

そこに光を当てるためです。

我々の魂がシステムに絡め取られ、

貶められることのないように、

常にそこに光を当て、警鐘を鳴らす、

それこそが物語の役割です。


私はそう信じています。


→ 引用終了


もう完全に、

小説家がつむぐ物語と看護師が産むケアが

同じ目的に進むパラレルな人間の生業として

自然にこころにしみ込んできますね。


「個の魂の尊厳を浮かび上がらせ、そこに光を当てる」


これは村上春樹が、

看護がいかに専門的で偉大な役割をもつ生業であるかを

その尊厳に光を当てているとも考えられます。


→ 以下引用(省略もあります)


私がここで皆さんに伝えたいことはひとつです。

国籍や人種や宗教を超えて、

我々はみんな一人一人の人間です。


システムという強固な壁を前にした、

ひとつひとつの卵です。


我々にはとても勝ち目はないように見えます。

壁はあまりにも高く硬く、

そして冷ややかです。


もし、

我々に勝ち目のようなものがあるとしたら、

それは我々が自らの、

そしてお互いの魂のかけがえのなさを信じ、

その温かみを寄せ合わせることから

生まれてくるものでしかありません。


考えてみてください。

我々の一人一人には手に取ることのできる、

生きた魂があります。


システムにはそれはありません。

システムに我々を利用させてはなりません。

システムを独り立ちさせてはなりません。

システムが我々を作ったのではありません。

我々がシステムを作ったのです。


私がみなさんに申し上げたいのは

それだけです。


→ 引用終了


この尊厳に光をあてるはずの看護とケアが、

今の国では、システム=壁のひとつとなり、

この尊厳を殺す一端を担っている現状には

強いかなしみと怒りを感じます。


絶対システムの側にはならない。

それが村上春樹からもらったYUITOのモットーです。


権力争いの大学と医療界、何もしない看護協会

もうそんなシステムは破壊すべきなのです。


お偉い教授よりも、

利益を勘定する管理職よりも、

常に卵の側に立って繊細に悩む続ける臨床の看護師こそが、

光をあてるべきであり、尊敬されるべき存在なのです。


いつから日本の看護はシステムの側に立ったのか。


システムに攻められつつも、

今の看護に違和感を感じるみなさんは、

「個の魂の尊厳を浮かび上がらせ、そこに光を当てる」

ことを大切にする

「それでもなお卵の側に立つ」

本当に貴重な存在なのでしょう。


ぜひ村上春樹スピーチ「壁と卵」の全文を堪能して、

看護を本質を再認識してみて下さい。


村上春樹になると長くなるので、

今日はここまで。




村上春樹の思想がわかる

数々のスピーチや小文章をのせた本です。

この中に「壁と卵」が完全版で入っています。


村上春樹 雑文集

村上春樹 雑文集


「自己とは」や「オウムが与えた影響」、

「小説とは」「物語とは」など

村上春樹の小説でなく、思想がわかり、

トリハダが立つ一冊です。

マジでマジでオススメです!!


今度詳しく書きますが、

YUITO が一番だと思う村上春樹の小説はこちら。

システムと自己がテーマになった小説です。

難解ですが、これを読んで人生変わりました。

最近新盤になってビジュアルも深いです。


世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)


世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5)